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2005年9月15日
大宮法科大学院の上映会にあてたメッセージ
「変容」の旅先にて
坂上香(映像ジャーナリスト/京都文教大学教員)
 本日は、「ライファーズ 終身刑を超えて」をご覧頂き、ありがとうございました。これから司法の世界に進むであろう皆さんは、この映画を、ライファーズの生き様を、どのように感じられたのでしょうか。
 実は、今日はお誘いいただいていたのですが、あいにく2週間前から渡米しており、会場に足を運ぶことができません。非常に残念ですが、替わりにメッセージを書かせていただきます。
 今私はこの原稿を、ニューメキシコ州のアルバカーキーという町で書いています。「米国/メキシコ国境地帯で考える、暴力とコミュニティの再生」というテーマで、文化人類学を学ぶ20名の大学生と一緒に、米国の南西部とメキシコを訪れているのです。映画「ライファーズ」の舞台である「アミティ」を含めた、様々なオルターナティブな活動の場を訪れ、「暴力とは何か?」「暴力の根源は?」「私たちが抱く暴力のイメージはどこからきているか?」「暴力と対局にあるものは何か?」「暴力を脱するために必要なものは何か?」といった問いを、それぞれの学生たちが発し、考えていく旅です。
 ちなみに昨日は、アルバカーキーのメトロポリタン裁判所を訪れ、薬物事犯専門で、治療と裁判を組み合わせた「ドラッグコート(薬物裁判所)」やドメスティック・バイオレンス専門の「DVコート」などを訪れ、傍聴しました。特に「ドラッグコート」は感動的でした。薬物をやめて数ヶ月目の記念日だという被告人に対して、法廷にいる全員で拍手を送ったり、判事が被告人に対して「よく頑張っているわね。毎週あなたの成長ぶりをカウンセラーや保護観察官から聞くのが楽しみよ。それに今日は報告書を読みながら鳥肌がたったわ。今までは病気になっても放っておいたのに、先週はちゃんと自分で病院に行ったんですって!自分のことをケアできるようになってきたのね。すごいことよ。今日は一番に帰っていいわよ」と笑顔で送り出したり、それを嬉しそうに被告人が聞き入り、「日々薬物の誘惑に負けそうになるけど、生き方を変えたいと思うし、ここで皆に会うのが楽しみだから頑張って断っているよ」と照れながらニコニコ語る姿が印象的でした。法廷に漂う暖かい雰囲気と、人間的な人々の対応や反応に私は胸がいっぱいになり、通訳しながら涙が何度もこぼれたぐらいです。
 それとは対照的な法廷もありました。予算削減と司法関係者の安全を最優先させた「テレビ中継法廷」です。拘置所の中に作られた法廷と裁判所の法廷をデジタル回線でつなぎ、略式裁判を行う超近代的な法廷なのですが、学生たちは足を踏み入れたとたん、皆立ち止まってしまいました。法廷の中央に置かれた巨大なテレビ。至るところに設置されたカメラ。あらかじめ決められた保釈金の基準に照らしあわせて、「2500ドル」「1万ドル」と、まるでセリで魚の値段を決めていくように発言する判事。テレビのなかではニコリともしない無表情の被告人と、やる気の感じられない弁護士が直立不動状態でこちらの方を向いています。「ロボット法廷」とでも呼びたくなるようなこの法廷では、まるで私たち自身が映画のスクリーンのなかに迷い込んでしまったかのような不思議な感覚にとらわれ、なんともいえない違和感と疑問を覚えました。
 またこの裁判所では、軽犯罪に対するユニークな取り組みを行っています。路上生活者の暮らすホームレスシェルターまで判事が出張し、出前裁判を行うという「ホームレス法廷」や、「触法犯罪者のための法廷」なども行っており、判事自らが丁寧に、ユーモアを交えながらそれぞれの内容を紹介してくれるあたたかい姿勢や日本の司法制度との違いに皆驚いていました。
 この旅では、映画「ライファーズ」の舞台となった「アミティ」も訪れてきました。刑務所のなかで行われている「刑務所内プログラム」、社会復帰後の「社会復帰プログラム」、初犯で軽犯罪向けの「共同生活プログラム」、通所型で女性向けのプログラムなど、多様なプログラムを見てきました。学生たちは、それぞれの場で、かつて「手のつけられないワル」「更生不可能」というレッテルを貼られてきた人々に出逢い、薬物依存症者や罪を犯した人に対するイメージと現実との違いに戸惑い、彼/彼女らの暖かさや人間性の深さに揺さぶられてきています。映画に登場した人物たちが、一段と穏やかな表情になっていることにもびっくりしていました。また、プログラムを単に観察させてもらうだけではなく、学生自らもプログラムに参加し、自分自身について語り、お互いをシェアしあうことによって、他者のみならず自分自身とも遭遇し、自らのありかたを問われるという、貴重な体験をしています。
 明日で、15日の旅は最後を迎えますが、日々多くの発見と驚きと感動に満ち溢れていて、学生たちの言葉を借りると、「いっぱいいっぱい」になっているようです。その証拠に、3〜4日目からは多くが体調を崩し、バタバタと倒れ、寝込んでいます。疲れが原因だとは思いますが、カルチャーショックも体調を崩す要因の一つだと思います。たいていは1〜2日寝れば回復しますが、40度近く熱を出し、真っ青な唇を震えさせながら、真っ赤に充血した目で「先生、今日のプログラムには絶対参加したいんです。行かせてください!」と懇願してきたり、最初は質問ひとつすることさえできなかった学生たちが、今では積極的に手をあげ、自ら発言するようになるなど、学生たち自身、短い期間に多くの刺激を受け、かなりの変容を遂げています。
 この一連の体験のなかから、学生たちが感じとっているのは次のようなことではないかと思います。
 人は誰しも変わることができる。しかし、そのためには、変わるための場、サポート体制、時間、問題に向き合う勇気が必要であり、それらを実現させるためには、人間的な眼差しが不可欠である。
 これは、私が「アミティ」で出逢った人々から、この10年間に学び、感じ取ってきたことでもあります。「人は誰でも変わりうる可能性を秘めている」というこの単純なことが非常に通じにくい時代に私たちは生きていますが、映画「ライファーズ」に登場する人々は、確実に変容を遂げています。当たり前ですが、彼らは1日にして変容を遂げられたわけではありません。何度か失敗も犯しています。それでも諦めずに見守り、サポートしてくれる人々がいたから今がある、といいます。
 私たちはどうでしょうか。人が変わっていくことを信じ、諦めずに、見守り続けることができるでしょうか。
 皆さん、どうか人を排除するという発想ではなく、問題を抱える他者とどのように共生していけるか、という眼差しを忘れずに、司法に取り組んでください。もちろん法や制度を整備していくことは大切ですが、一人一人の眼差し=「何を信じ、何を求め、何を実現していくか」を問わずに、司法制度の改革や充実は成し得ないと思います。
 簡単ですが、これで終わらせていただきます。今日は本当にありがとうございました。
2005年9月15日
アルバカーキーのホテルにて